新型コロナウイルスの流行と小児科開業医の対応
新型コロナウイルス(COVID-19) 感染者、および死亡者が国内でも増加しており、しかも感染源、あるいは経路が不明な患者も相当数いることから、市中感染の状態になっているのではないかと懸念されます。市内の医療機関には、感染の不安をもった患者が大勢受診されているのではないかと拝察します。とくに内科の開業の先生方は、このような患者の対応に苦慮されているのではないでしょうか。
ニュースでは、肺炎で呼吸困難があり、新型コロナウイルス感染が疑われると医師が判断しても、保健所から検査を拒否されるというケースが少なからずあると報道されています。おそらく、実際の感染者は、国、あるいは自治体が報告する以上に多いのではないかと思われます。新聞報道では3月6日より本ウイルスのPCR検査が保険適応となりましたが、一般の医療機関から検査依頼をすることはできず、感染の恐れがある人は「帰国者•接触者センターに」に電話した上で、そこから紹介された全国に約860カ所ある専門外来を受診し、そこの医師の判断で検査を受けるようになるということで、これまでのやり方とあまり大差のない状況になります。一般の国民には、全ての医療機関で検査を受けられるという誤解を与えるのではないかと心配されます。開業医の窓口で「検査してくれ」、「ここではできない」、「なぜだ?新聞にはどこでも受けられると書いてあった。」などと文句を言ってくる患者が増えないようにと祈るばかりです。
結局、一般の医療機関はそれぞれの創意工夫でこの危機を乗り切るしか、方策はなさそうです。私のところは小児科単科ですので、原則として18歳以上の発熱、咳の患者は内科を受診するよう勧めています。窓口での患者、あるいは保護者の渡航歴、接触歴のチェックも厳しくしています。また喘息等の慢性疾患で定期の処方の患者に対しては、電話再診で状態を確認し処方箋を発行しています。発熱や咳が続く患者は保護者の不安が強いため、できるだけインフルンザ等の抗原迅速検査、血液検査、百日咳菌核酸検出(LAMP)、マイコプラズマPCR検査等を行っています。とくにマイコプラズマ肺炎は熱と咳が遷延するため、新型コロナウイルス感染症と病像が似ており、とくに患保護者の不安が強いようです。当院では昨年6月に、院内で40分ほどで結果を出せるPCR検査機器Smart Geneを導入しました。陽性と判断した患者には、その日のうちにクラリスロマイシンを処方し、ほぼ全ての患者が翌日には解熱、咳も軽快するという効果を得ています。ある患者の母親は、子供が熱と咳が出ているというだけで、会社で「大丈夫か?出社を控えろ。マイコプラズマという証拠はあるのか?」などと言われたので、プリントアウトされた結果をスマホで撮っていきました。
院内での感染防止対策に必要なマスク、消毒用アルコール、手指消毒機材も不足がちです。当院では、この騒動が起こる少し前に問屋から比較的まとまった量を仕入れていたのですが、その後は注文しても入荷しない状況が続いています。2ヶ月以上、このような状況が続くと在庫が切れるかもしれません。マスクなどの感染予防物品を大量に増産中と聞いていますが、ぜひ、医療機関に優先的に回してもらいたいと思います。
私は、今までは診療は基本的にノーマスクで、また手洗いも水道水の水洗いだけでしたが、この状況になってから必ずマスクを着用し、発熱、咳の患者を診療した後は石鹸で洗った後にアルコールで手指消毒をするようになりました。COVID-19の患者が来ないことを祈るばかりですが、先日、当院をかかりつけにしているお子さんの母親が、自身が熱と咳が出たと受診してきました。会社に勤めていて、様々な人と面談する機会の多い仕事についています。内科を受診したらと勧めたのですが、「かかりつけにしている内科はなく、当院で持病の喘息の薬を処方してもらったことがあるので、先生、なんとか診てほしい。」と懇願されました。防護服などはありませんので、ビクビクの診察ですが、とりあえずインフルンザの迅速検査を行いました。陽性に出てくれと祈ったのですが、結果は陰性でした。喘息と漢方の薬を処方しました。その後、診察室や待合室を消毒しました。2日後に電話で確認したところ、解熱し咳も軽快したということでホッとしました。また11歳の児が発熱と咳を訴えて受診しました。数日前にイタリアから帰国した人と接触しているということで、車の中で待機してもらい、駐車場に出向いてインフルエンザ迅速検査を行いました。幸い陽性とでたので、改めて院内に入ってもらい、診察と処方を行いました。
政府は小中高等学校の休学、大相撲や高校選抜野球の無観客開催など、国民に準非常事態のような行動をとるよう強く要請し、また国会では新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に向けての審議を始めています。社会や経済に対する影響は測り知れませんが、私は止むを得ないことだと思います。これが功を奏してCOVID-19の感染者の減少、そして1日も早く流行の収束に向かうことを祈るばかりです。
令和2年3月10日
くさかり小児科 草刈章