数千年の歴史を、私達と共に過ごしてきたネコ。ほぼ世界中、人間が連れて行った先々で、ヒトの社会に順応して種を保存してきました。
かつて穀物荒らしの害獣を駆除するのに役だったとは言え、これまで一度も人間に利用されたことがないままに、世界中のヒト社会の中で生き続けてきました。ああ、楽器の皮には使われました!残念な事実です。近年、これに代わる人工皮革ができています。
都会のマンションから農家まで、幅広いライフスタイルに合わせられる彼らですが、決して群れず、独立独歩で、気が向かなければ知らん顔、媚びず、忖度せず、超然とした自信たっぷりなすまし顔。人の世を睥睨するかのようなキャットウォークは、一流モデルのお手本です。
こんなに勝手気ままな生き物が、自分の意志で駆け寄ってくる時、ヒトは思わず心の紐が緩んでしまいます。飼い主の顔をじっと見つめて何かを懇願する時、有無を言わせぬ威厳を感じて、ヒトは彼らの僕(シモベ)になり、渋々(あるいは嬉々として)従ってしまいます。家猫達にとって、飼い主は便利な同居人。同居人の車の音を聞き分けて、尻尾をピンと挙げて玄関でニャーと一声。飼い主は頭をなでて留守を詫びます。経験を重ねたネコは、快適に過ごすために自分のして欲しいことを、同居人にわからせる術を心得ています。一人になりたい、撫でて欲しい、傍にいたいだけ、どれも自分の意志が最優先。
自己主張の極みは、自殺行為ともとれる意志の強さです。我が家のタマは、一度ハンストをしました。親戚の子が、トイプードルを連れてやってきたのです。よく躾けられたワンちゃんだけれど、何せイヌだから、嬉しくてあちこち激しく動き回ります。タマは、初めて見るヘンな生き物に遭遇して、完全に平静心を失いました。家具の陰にじっと隠れて、動きません。イヌが帰った後も、丸1日丸くなったまま、一切の飲食を絶ってしまいました。弱り切って、動くこともできません。慌てて獣医さんに診てもらうと、どこも悪くないと。水分補給をしてもらい、無理矢理口に入れる缶入りフードをもらってきたのですが、2日も経つとげっそり痩せて背骨が浮き出てきました。オロオロと毎日機嫌をとりながら、1日2回注射での水分補給と、高カロリーの餌を無理矢理口に入れて1週間、やっと少し自分で食べるようになり、2週間後にほぼ元の生活に戻りました。
今年タマは15歳。もう殆ど野生の本能を忘れてしまったようですが、時折見せる“我の強さ”は、健在です。長い人生経験(アッ、ネコでした)から、同居人(私)の行動パターンを把握していて、常に同居人のみえるところに陣取ります。“外出する気配”を察すると、体勢はそのままで部屋を出ていくまで眼で見送ります。本能的な野生の世界と、人間のペットであることをラクに行き来できるネコは、世俗のしがらみに埋もれる私達に、「ラクに生きなよ」と、語りかけているようです。
夜、人間社会の仕事がおわり、タマを膝に乗せてじっと瞳を見つめあうとき、一瞬種の境界を越えたように感じます。生老病死を思い煩うことなく、今この時間を生きている誇り高い生き物。ちょっと羨ましい気がします。

参考:ネコ学入門 クレア・ベサント著 三木直子訳 築地書館
おうえんポリクリニック 並里まさ子

タマ 15歳

タマ 15歳